<兜町カタリスト> 「キツネ」
むかしむかし。
一休さんと言う、とんちで評判の小僧さんがいました。
一休さんが寺で株のネット取引をしていると、
海の向こうの国からヘッジファンドのおじさんがやって来て言いました。
「小僧さんたち。上がりそうな株を見つけたから買ってみたらどう」。
「こりゃ、上がりそうな株だ」
「いただきまーす」
小僧さんたちがさっそくその株を買ってみると・・・。
買ったその日にあっという間に売り気配。
「なんだ?」
下がった株を見ていると、実は無配で赤字の単なるボロ株でした。
「おじさん! 見通しが違うじゃないか」
みんなが文句を言うと、おじさんはドロンととんぼ返りをするると狐の姿に変身しました。
「けけけ、まがいものの株はうまかったか?」
「あっ! こいつはキツネだぞ! それ、つかまえろ!」
小僧たちはキツネを追いかけましたが、キツネはあっという間に身を隠してしまいました。
その時、本堂から和尚さんの呼ぶ声が聞こえました。
「大変だあ! みんな来てくれ!」
小僧さんたちが行ってみると、和尚さんの持っている銘柄が倍になってパソコンの画面に映しだされていました。
「この半分は、さっきのキツネが化けているな」
和尚さんと小僧たちがパソコンの銘柄を見つめましたが、いくら見てもどれが本物か見分けがつくはずがありません。
「和尚さん、こうなったら全部売ってみましょう」。
「それはいかん。
狐が化けた偽ものの株を売ったあとにもとの狐に戻られたら受け渡しができなくなる」。
すると、今まで黙っていた一休さんが言いました。
「和尚さん。
見分けるのは、簡単ではありませんか。
何しろ本物の株には、和尚さんの思いがこもっていますが、キツネが化けた株には思いや記憶がありません」。
和尚さんは、一休さんに合わせて言いました。
「おお、そうじゃった、そうじゃった」。
「では、さっそくこの一つ一つの塩漬けの歴史をなぞってみよう」。
そう言って和尚さんが思いを馳せると・・・。
パソコンの画面で社名が浮かびあがる銘柄と全く何も出てこない銘柄に別れました。
「それっ、銘柄名が浮かび上がらない銘柄がキツネだぞ!」
一休さんの合図に、小僧たちはキツネを捕まえると柱にしばり付けました。
キツネは涙を流して謝りました。
「助けて下さい。もう二度と、イタズラはしません」。
キツネは許されると、二度と株式市場には近づきませんでした。
おしまい