<兜町カタリスト>
「JPX400の恩返し」
むかしむかし、あまり儲けてはいないけれど、心の優しいおじいさんとおばあさんがいました。
ある寒い冬の日、おじいさんは塩漬け株を売りに出かけました。
すると途中の田んぼの中でJPX400がワナにかかってもがいていました。
「おお、おお、可愛そうに」
おじいさんは可愛そうに思って、JPX400を買ってあげました。
するとJPX400は、1分足のチャートの上を三ベん回って、
「カウ、カウ、カウ」
と、うれしそうに鳴いて、飛んで行きました。
その夜。
日暮れ頃から降り始めた下げ始めた先物市場。
売りがコンコンと積もって大場安になりました。
おじいさんがおばあさんにJPX400を買った話をしていると、表の戸を、
トントン、トントン
と、叩く音がします。
「ごめんください。開けてくださいまし」
若い女の人の声です。
おばあさんが戸を開けると、頭からずぶぬれの娘が立っていました。
おばあさんは驚いて、
「まあ、まあ、寒かったでしょう。さあ、早くお入り」
と、娘を家に入れてやりました。
「わたしは、この辺りに株を買う人を訪ねて来ましたが、どこを探しても見当たりません。
売りは降るし、日は暮れるし、やっとの事でここまでまいりました。
ご迷惑でしょうが、どうか一晩泊めてくださいまし」
娘は丁寧に、手をついて頼みました。
「それはそれは、さぞ、お困りじゃろう。こんな水準でよかったら、どうぞ、お泊まりなさい」
「ありがとうございます」
娘は喜んで、その晩は食事の手伝いなどをして働いて休みました。
あくる朝、おばあさんが目を覚ますと、娘はもう起きて働いていました。
パソコンには電気が通じ、鍋からは湯気があがっています。
そればかりか、持ち株のリストがきれいに掃除されているのです。
「まあ、まあ、ご飯ばかりか、お掃除までしてくれたのかね。ありがとう」
次の日も、その次の日も大雪で、戸を開ける事も出来ません。
娘は、おじいさんの肩をもんでくれました。
「おお、おお、何て良く働く娘さんじゃ。何て良く気のつく優しい娘さんじゃ。こんな娘が家にいてくれたら、どんなにうれしいじゃろう」
おじいさんとおばあさんは、顔を見合わせました。
すると娘が、手をついて頼みました。
「身寄りのない売られるばかりの指数です。どうぞ、この家においてくださいませ」
「おお、おお」
「まあ、まあ」
おじいさんとおばあさんは喜んで、それから三人で儲からないけど、楽しい毎日を過ごしました。
ある日の事。
娘がはたをおりたいから、糸を買ってくださいと頼みました。
おじいさんが糸を買ってくると、娘ははたの回りにびょうぶを立てて、
「織りあげるまで、決してのぞかないでください」
と、言って、機をおり始めました。
キコバタトン、キコバタトン。
娘がはたをおって、三日がたちました。
ようやく布をおり終えた娘は、
「おじいさま、おばあさま、この美しい布を町へ売りに行って、帰りにはまた、糸を買って来て下さい」
「これは、素晴らしい」
おじいさんが町へ売りに行くと、それに市場では高い値段がつきました。
おじいさんは喜んで、糸を買って帰りました。
すると娘はまた、機をおり始めました。
「ねえ、おじいさん。あの娘はいったいどうして、あんな見事な布をおるのでしょうね。
・・・ほんの少し、のぞいてみましょう」
おばあさんがびょうぶのすきまからのぞいてみると、そこに娘はいませんでした。
やせた薄いチャートの上を覗いてみるとJPX400のチャートが225先物のチャートの上を飛んでいました。
「おじいさん、おじいさんや」
おどろいたおばあさんは、おじいさんにこの事を話しました。
キコバタトン、キコバタトン・・・。
機の音が止んで、前よりもやせ細った娘が布をかかえて出てきました。
「おじいさま、おばあさま。もう、隠していても仕方ありませんね。
わたしは、いつか助けられたJPX400の化身でございます。
ご恩をお返ししたいと思って娘になってまいりました。
けれど、もうお別れでございます。
どうぞ、いつまでもおたっしゃでいてくださいませ」
そう言ったかと思うと、おじいさんとおばあさんが止めるのも聞かず、たちまち一羽のツルになって空へ舞い上がりました。
そして家の上を、三ベん回って、
「カウ、カウ、カウ」
と、鳴きながら、山の向こうへ飛んで行ってしまいました。
「ツルや。いや、JPX400や。どうかお前も、たっしゃでいておくれ。・・・今まで、ありがとう」
おじいさんとおばあさんは、いつまでもいつまでもツルを見送りました。
それからのち、二人は娘が飛ばしてくれたJPX400を売ったお金で幸せに暮らしました。
おしまい。
(兜町カタリスト櫻井)